蟲師

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「蟲師」は、月刊アフタヌーンで連載されていた、漆原友紀による漫画である。
「蟲」と呼ばれる謎の生物(生命の根源に近く、自然現象などを引き起こす原因と書かれている)と、それらの研究、駆除を生業とする「蟲師」のギンコが、蟲を通して人々と触れ合う物語。

 

 

2003年の文化庁メディア芸術祭では漫画部門優秀賞を受賞し、同作品のアニメ版は2007年度芸術祭・アニメーション部門で6位に入るなど高い評価を受けている。

 

 

作品の世界は、日本の明治時代手前程度と言われており、主人公以外は着物を着ており、電気の無い、自給自足の生活を行っている。作中、蟲の仕業として出てくる現象は、虹の発生などの自然的なものや、神隠しなど民俗学に沿ったものなど様々で、私達が普段過ごしている中でふと感じる不思議や小さな恐怖を呼び起こしてくれる。

 

 

一つ、お気に入りの話を紹介する。3巻収録の「錆の鳴く聲」という話だ。

 

 

ギンコがやってきた村は、不思議な事に村のあらゆるものが錆びている。鉄だけではなく、石や植物、果ては人間にまで錆がつく。その謎を解明しようとする中、言葉を発さない少女に出逢う。何と少女は、自分が声を出すと周囲の人間が錆びてしまうと言うのだ。少女は自分の声を呪い、喉をつぶす為に誰にも聴こえない山奥で怒鳴りつづけて居たという。
錆の原因は、彼女が発する声に、人間には出せない音が混じっており、その音に「野錆」という蟲が集まってくるというものだった。

 

 

ギンコは村に集まった蟲を散らすためには少女の声を使うしかなく、山奥のこだまがよく響く場所で声を上げる事で、村の蟲を散らす方法を提示する。村八分同然の扱いを受けて来た彼女は、それでも村のために蟲を散らすために行動に出る。

 

 

謎の疫病の原因を特定の人物になすり付けて、その人物を排除しようとする姿勢は古くから日本にもあったものである。そこに「蟲」という原因をつけ加える事で、不思議さが増すのに何故か説得力が生まれる。

 

 

人間の汚い感情や本能を、蟲を織り交ぜながら淡々と描くこの作品には、日本の古い景色の美しさだけではなく、古くから私たち日本人の心の宿る、日本人らしい感情の美しい所と汚い所、両方が描かれている。目をそらしたくなるような題材が多い中で、それでもその問題と向き合える機会を与えてくれる、素晴らしい作品と言えよう。